HOLLOW SUNS

Day1-2020/12/17

朝5時に起きて嫁と共に羽田に向かった。
今回の旅は初めてがいっぱいだ。人生最長の旅に加えて、アメリカで初めてクリスマスと年越しを過ごすし、世界一のプロデューサーとアルバムを作る。
羽田空港は本当に人がいなくて非常に驚いた。朝早いと言うのに、アユムが見送りに来てくれて握手して旅立ち。アユムは二日間B.B.streetに泊まり込んでいたらしく、煙草臭さマックスかつ上着もホームレスのようだった。洗え。見送りに来てくれたのは素直に嬉しかった。

空港では心配していたPCRテストや証明書の提示などは一切なく、何事もないかのように出国手続きをパスし飛行機に搭乗。なんと乗客は20名しかいない。キャビンアテンダントとほぼ同数くらいしか乗客がいないんだからJALもそれはそれは大変だろう。11時間のフライトを経て緊張しつつ早朝のシカゴに到着。しかし心配をよそにまったくもってあっさり入国。多少熱を測った程度で全く検査などない。日本で受けたPCRの意味が一気にゼロになった瞬間ではあったがとにかくアメリカの地を踏めた。シカゴで感じたのは皆マスクはしているものの全くソーシャルディスタンスしない。列に並んでもゴリゴリ詰めてくるし、係も注意しない。こりゃ日本より感染者が多いわけだ。 国内線に乗り継いでついにフィリーに降り立ち、最も心配された峠を越えた。

空港にはウィルのアシスタントのハンクが迎えに来てくれた。この日は彼の22歳の誕生日だそう。
なんか悪いねとウィルにメールしたら「あいつにはフェンダーのアンプをプレゼントしたから、多少顎で使ってもいいだろ」とのこと。ボスイップである。

ハンクと一緒にアメリカでもPCRを受けるためドライブスルーの検査施設へ。検査施設はなぜかHootersの横にあったのが気になったが、日本よりもシンプルに検査できるし価格も安く、結果も早い。ハンクと飯を食ってる間に陰性の結果が届き晴れてイップ家へ向かった。
アメリカの閑静な住宅街にウィルの家はそびえている。でっかーい。二階建ての素敵すぎる家だった。フィアンセのクリスティーナが愛犬と共に迎えてくれた。素晴らしい1年ぶりの再会であるが眠すぎて英語が全然出てこない。ハンクはThe Starting Lineとの仕事のためにスタジオに向かい、クリスティーナに家を案内してもらった。
僕と嫁が泊まるゲストルームを完璧にセットアップして待っていてくれて本当に感動した。お客さん用のバスルームまで用意してくれていた。最高だ。が、眠すぎる。しばし昼寝してウィルを待った。

数時間嫁とガン寝したのちウィルに起こされたので、一瞬夢か現実か分からなかったが、彼の顔を見て一年頑張ったアルバムがこれから形になるんだと若干現実味を感じることができた。一緒にテイクアウトの夕飯を食べて、ウィルのギターコレクションを見せてもらった。さすが大物だけあってめちゃくちゃ機材もあるし、地下にはミックス用のスタジオがある。今回の旅では自分に合うFenderのギターを見つけるのももう一つの目的だ。積もる話もありつつこの日は終了。泥のように寝た。

Day2-2020/12/18

時差のせいか7時半に目覚めた。一緒にコーヒーを飲んだのちウィルはスタジオへ。クリスティーナと嫁と3人で家に残りそれぞれの仕事をして過ごした。今日から夜はプリプロを始める。そのために若干昼寝をしておいた。
4時ごろ目覚め、近所にあるモールへブラブラしに向かった。このモールはアメリカ最大級の大きさだそうでだそうでとにかくでかい。モールでウィルと合流して散策。ウィル夫妻はとにかく食う。しかも絶えず食ってる。スナックでもタピオカでもとにかくずっと食べている。一緒になって食べていると腹が減る瞬間が全くない。モールのあとに地元で評判のグリル屋でテイクアウトして帰宅しディナー、腹一杯の上からさらに肉を食って満腹の向こう側へ。

そして本題のプリプロを開始した。この時点でウィルは12時間スタジオで作業してるし結構疲れちゃってるかなと心配だったが、すごくパワフルだった。僕は「一回曲をぶっ壊してくれ」とオーダーしたが、本当にそうしてくれたと思う。でもなんか綺麗な壊し方な気がする。原曲を尊重しつつ壊す感じ。とりあえず大きく変更が必要なDeep Down、Dry Out、Searching、Namelessから着手した。着手といっても具体的に作業するわけではなく改善点の指摘と明日から日中に作業できるよう僕に宿題を出してくれた。
彼は僕のデモを何回も聞いて改善点をメモにまとめてくれていた。実はそこにも感動したし、一生懸命時間をかけた甲斐があった。

Pro Tools上で曲をチョップし構成をガンガン変える。アイデアはどれもキャッチーかつビッグにする方向だったし、どれも具体的でやりやすかった。ここは捨てよう、ここはサビではなくAメロにしてサビを新しくつけようなど、ビシビシ来るし、テンションが高い。何より自分の冠がつくものだからという意識が素晴らしかったし「俺はヒットメーカーだ、任せろ」という自信がすごい。こっちも大船に乗れる。

正直今までの作曲作業は孤独な自分との戦いだった。メンバーの意見も素直に聞けていない面が強かった。どうしても僕の方が作曲経験が豊富だし、メンバーのアイデアにエゴが多かった気がする。だが今回は圧倒的にキャリアのあるプロデューサーの助言を仰いでいるし、色々トライしてみようと思えている。気づけばあっという間に2時間過ぎてお開き。有意義な初日だった。

Day3-2020/12/19

今日は土曜日。
早朝に寝ぼけて使ってはいけない故障したトイレを使ってしまい、どうにか自分でリカバーした。そのせいで朝5時に完全に目が覚めてしまった。まずい、このままでは時差ぼけが治らない。昨日買ったCBDグミを多めに食ってどうにか寝たがそれでも8時ごろ起きてしまった。
ウィルは相変わらず朝からスタジオへ。今日明日、The Starting Lineのストリーム用の収録があるらしい。現場で見たかったがあまりおねだりするのもよくないから我慢している。

朝から地下のスタジオに自分のスペースを作って昨日出された宿題にとりかかった。Dry Outには新しいサビが必要だと言うことで、メロディと展開を考えてデモを作った。が、もうちょっと推敲が必要だなぁ。

午後はクリスティーナに連れられて街中にお出かけした。フィラデルフィアの町は非常にクラッシィ。古い建物が多くて面白かった。女性向けのビンテージショップなんかでハングアウトしていたが、やっぱり完全に時差ぼけになってしまい、途中から車待機。

そのまま調子は戻らず6時ごろに帰宅してから完全にダウンしてしまった。ウィルが8時ごろに帰宅したらしいが今日はハードワークだったようで疲れてるらしいと聞いて、そのまま朝までぶっちぎって寝ることにした。これで一気に巻き返して明日から本気出す。

Day4-2020/12/20

15時間ほど寝倒して多少倦怠感はあるものの、少し体が軽くなった。多分もう大丈夫かな。多分。

ウィルはスタジオへ。あと数日はThe Starting Lineの案件が待っているようだ。このブログが世間にお目見えする頃はパブリックになっているだろうが、SLは持ち曲を全部プレイするらしく、全ての曲をライブレコーディングで収録するらしい。1日何十曲も撮ってるから現場も相当疲れてるしピリついてるらしく、おねだりの隙は全くなさそうだ。残念だが日本人らしく空気を読んでおこう。確かに全曲見れると言われても若干困ってしまうかもしれない。人によるだろうけど。

今日は昨日十分できなかった宿題の続きを片付ける。Dry Outに新しくサビをつける。今回アルバムの曲を書くために僕は11月から毎週Attic Studioに通っては曲を作っていた。Attic Studioも今まで以上に作曲環境としてはよかったのだが、イップ家の地下も作曲スペースとしては快適だ。広いししっかりセットされた楽器が山ほどある。声も出し放題。
歌を考えたくて、勝手にアコギを借りた。異常に鳴る。自分の3万のアコギとは比べ物にならない。

途中確かにYouTubeとか見ていた時間はあったが、どうにか新しいサビを作った。結構いいできだと思う。昼ごろからやってたのに、気がついたらウィルが帰ってきた。今夜のプリプロでいいリアクションが見れたらいいけど。
と思ってたら「このアコギは使っちゃダメなんだよぉ〜」と言われた。だって「Whatever you want」っていったじゃねぇか(笑)。このアコギは繊細で、湿度や温度に敏感だからスタジオには置きっぱなしにせずわざわざ家で保管していたらしく、聞けばコードを録るためだけのアコギだそうだ。アルペジオはこのアコギではとらない、本当にコード専用のアコギだそうだ。そんなのあるんだすげぇ。 ってかそりゃ鳴るわ〜。普段絶対にそんなことしないけど、あんまり鳴るもんだから1人で「びり〜べぇ〜ん」とか練習までしちまってた。 余談だが、ウィルは相当几帳面なタイプらしく、クリスティーナが彼のいない間に私物に触ったりすると気づくらしい。そんな人がよく僕らを家に1ヶ月も泊めてくれたもんだと思ったが、クリスティーナ曰く、1ヶ月も人を家に泊めるなんてことは親戚でも絶対にないパターンで、Bone$夫妻は特例だそうだ。それはそれでちょっと嬉しかった。 とりまギターの件はくそ謝った。言ってなかったしいいよと超笑われた。

夕飯を食べて今夜もプリプロの続きだ。とりあえず残りの懸念点をさらって、2曲ボツ曲を決める、これは最初から決まっていたことだった。
が!しかし、1曲僕の肝いりの曲がボツを食らった。ショックすぎて凹むが彼の指摘はごもっともだった。他の曲に関してはすごく褒めてくれるのにこの曲に関して本当にけちょんけちょんだった。悔しい、書き直したい。そう伝えたが「今持っている曲に全力を注ぐべきだ」と諭される。通訳の嫁にまで諭される。四面楚歌。
彼のプロデュースは非常に客観的だし理論的かつ具体的だ。指摘されたメロディは他の曲より確かに劣っていたと思う。日本で「ここは指摘されるかもなぁ〜」と自分でも思っていたところはほぼ指摘された。
ウィルの冠をつける以上、今回のアルバムは彼のキャリアの一貫であり、Hollow Sunsのアルバムは彼のアルバムでもある。故に「君がいいならいいよ」みたいなのは一切ない。言い方はマイルドにしてくれてるけど言うことは言う。プロデュースをしている時のウィルは普段と全く違う。頑固だ。これが本場のプロデューサーか!と食らう。 そして編曲された曲たちはどれも良くなる。聴きやすくなり筋が通る。

そして昼間作ったDry Outのサビを聴いてもらった。僕の作ったサビを気に入ってくれたようで安堵する。

僕が作ったメロディラインにはサビ前後半に間隔なく歌を詰めていたので、折り返しでブレイクをいれた。印象的だったのはCメロだ。曲が大きく広がるようにコード進行をチェンジしたデモをウィルは痛く気に入ってくれた。
横に通訳の嫁さんもついてもらって、3人でCメロのフレーズをループ再生しながら、ウィルがメロディと歌詞をつけた。コーラスと絡み合う形のシンプルなメロディで曲に深みが増す。
「録っとけ、録っとけ!」とテンション高く2人でCメロのラインをiPhoneに記録しハイタッチした。なんて良いブリッジなんだと感動する。ウィルと一緒に曲を完成させたということがジーンと胸に残った。

「Bone$この曲は稼げるぞ!」と一生言われないだろうと思ってたことまで言ってくれた。んなこたぁねぇだろ!と、嬉しい気持ちが混ざって訳のわからん表情になっていたはずだ。

要追加箇所などの洗い出しも終わってこの日は終了。数日後からスタジオへ場所を移す。歌詞の追加も結構必要なので日本でリリックを一緒に作っているケンにも連絡し、疲れ切って寝た。

Day5-2020/12/21

今日は平穏というにふさわしい時間だった。特に何もしてない。
ウィルは朝からスタジオへ。今日がThe Starting Lineとの最終日で、明日からはいよいよ僕との作業だ。

ストリームまでの秘密だよと言われたからここにも書けないが、The Starting Lineは素敵なカバーを1曲やったそうだ。意外な選曲かつ、感動的なメッセージを込めての演奏だったようで聞いただけで目頭が熱い話だった。

明日はついにスタジオに行く。遠足の前の子供のような気持ちで飯食って寝た。

Day6-2020/12/22

ついにこの日が来た。今日からスタジオインする。Studio4に踏み入る時がついに我が人生に訪れた。朝からそわそわ。

スタジオには10時半に入るため10時にウィルの車で家を出た。Studio4はカンシャホーキンという地区にある。カンシャホーキンは先住民の言葉だそう。北海道の地名とかに近いものがあるのかな。

スタジオの一階はパブになっている建物、地下室へ降りていき。ついにStudio4の扉を開けた。ドアを開けるといきなり1番広い部屋に直通している。YouTubeで見たアレが!今目の前に!思わず声が出てしまい、ウィルに「Welcome」と言われとりあえずハグした。所々汚いし、壊れてたりするけどそれも歴史ある場所だからなのかもしれない。とにかく目標地点に到達した。長かったー。

ブースに入るとハンクがすでにセットアップしてくれていた。程なくして今回ドラムを担当してくれるTigers Jawのベンが来てくれた。ベンとは面識があったものの、ガッツリ絡むのは初めてだ。どんな人かと多少心配していたがただのクソ良いやつだった。ぶっちゃけ英語もウィルより手加減してくれる。挨拶して今回レコーディングに付き合ってくれることにまずお礼を伝えた。ベンはTJではフロントマンだが15歳からドラムを始めて、TJでもメンバーが辞めるたびにポジションをスイッチしてきたらしい。人に歴史ありだね、スイッチする時色々ある苦労は僕も経験してるから、その時はとりあえず彼の背中をさすった。

最初はスタジオの中を案内してもらった。機材や楽器はたんまりあるし、壁にはやたら雑にビートルズのポスターが貼ってある。そしてゴールドディスクがたくさんかけてある。それらもまた雑に。僕が一番上がったのはこれだった。

わージョーペリーと同じ場所でギターを弾くんだなー。全然関係ないけどベンもたまたまエアロスミスのシャツを着てて盛り上がった。

色々準備していると、突然ドアを開けてThe Starting Lineのケニーが入ってきた。「おーケニーだーやべー」ってな感じ。機材を下げに来たのかと思ったら、前日のストリーム収録の飾りつけに使った薔薇の花を回収しに来ていた。想像したキャラ通りな感じで密かに上がる。

じゃあ始めようってな感じで小一時間くらいでレコーディングがスタートした。ベンのドラムプレイは見たことがなかったので、どんなもんだろう?と叩いているところを直接見に行った。まーったく問題ございません。さぁせんした!ってなもんだ。しかもデモを聴いて練習してきてくれたし、曲を褒めてくれた。お世辞でもリスナーとして聴いてきたバンドに褒められると悪い気はしない。

最初はDeep Downから。ウィルも、ベンもこの曲が1番良いと言う。意外だった。2人とももっと地味でマニアックなものが好きな印象だったが、やっぱりみんなビッグソングが好きなようだ。そう言うところには親近感を感じた。ウィルのレコーディング工程は独特で、太鼓と金物を別々にとっていく。ミックスの時にやりやすいらしい。パートごとに細かく指示していく。ベンもサクサク叩いていく。作業がものすごくスムーズだったし、2人とも説明なしでもお互いの言いたいことを理解していた。

この日最も驚いたのは録り音の時点でかなり奥行きのある音になることだ。初めはプラグインがかかっているのかと思って「なんのプラグイン?」と質問した。ベンのプレイがいいのもあるが、とにかく自然な部屋鳴りがあって、取り音時点で質の良いMIDIサンプルを聴いてるようだった。ヤバすぎる。

もう一つ驚いたのは、ウィルの仕切りのテンションだった。プロデューサーというより、スポーツの監督みたいなテンションでガンガンベンに指示する。「So,good」「Hell yeah hard as nails」とか言いながらとにかくハイテンションだ。物静かなタイプのプロデューサー像を想像していたから圧倒された。そして、ずっと立ちっぱなし。ほとんど座らない。そのテンションでバシバシ指示するし、僕の打ち込んだドラムをどんどん改善していく。スピードも速いし的確だと感じた。僕はいつもドラムを打ち込む時複雑にしがちだがウィルはそこを的確に補正してくれた。楽曲をより聴かせるためのシンプルで力強いかなりアメリカンなドラムに仕上がっていく。ベンにも言ったが今まで日本で一緒にプレーしたドラマーには「外人みたいに叩いて欲しい」的なことを伝えていた。だからなんか今回は若干ズルした気持ちになった(今までのドラマーが悪いって言ってるわけじゃないよ)。

ウィルの指示を見ているととても勉強になった。「あーこここうすんのね」「あーたしかにこっちの方がいいわー」の連続であった。ウィルの指示も面白かった「スネアをIn Uteroのデイブみたいに」「ハットはリンゴスタイルで」「テイラーホーキンスでいこう!」とか例えながらベンに伝えていく。

嫁にずっと嬉しそうだねと言われた。そりゃそうなんだよね。どんどんアルバムができていくし、自分の想像を超えるから楽しくない訳がない。 この日は5曲仕上げて終了。僕自身は何もしてないが時差ボケも手伝って帰宅してバタンキューだったが、なんとも嬉しい日だった。

Day7-2020/12/23

昨日に引き続き今日もドラム取り。勝手も段々わかってきた。今日で残りの曲を一気に片付ける。

ウィルは毎日10時間くらいスタジオにいるし、合間でレーベルや自身の資産運用もしているハードワーカーだ。でも新しいバンドにも詳しい。どうやってディグしているか聞いたら、定期的にそういう情報をまとめてくれるエージェントがいるらしい。通勤や休みの時間を使って新しいバンドをチェックしたり、トレンドの流れをキャッチして知見にしているらしい。興味深い。

昨日と同じく、11時くらいからレコーディングがスタート。今日は前日より曲数も多いし、ラウドな曲が多い。今回のアルバムは色々な曲があるが、やっぱりドカンと来る曲は気持ちが上がる。

「君のドラムパターンはユニークで面白いよ。でもパターンをコロコロ変え過ぎだから、もっとちょっとずつでいい」と朝イチアドバイスしてくれた。ウィルは前に日本で話した時、自分と作業したバンドは皆ミュージシャンとして成長して帰ると豪語していた、それもプロデューサーの仕事だと。僕ももしかしたら成長出来るかもしれない。だから彼がどう曲を良くするか見逃したくない。

ウィルは毎曲コントロールルームにベンを呼んで基本パターンをその場で詰めて説明する。オカズに関しては概要だけ伝えてまずベンにやらせ、そして修正していく。ベンが最初の指示でいいオカズを放り込んでくると全員で「Yeah! Dude!」みたいな感じで声が上がる。野球のチームみたい。僕も所々口を挟んだけど基本はお任せだった。

昼飯の時にウィルが銀行に行っている間、ベンとゆっくり話せた。「なんか任せっきりだなぁ」と言ったら「TJでも最初は色々意見をしてたけど、ウィルがすごいから、ある時からもう任せるようにした」と言ってた。曲を立案するのはソングライターの仕事だが、ブラッシュアップするのはプロデューサー。分業制なんだよなー凄い。ウィルが繰り返し僕にいうのは自分にはエゴはなく曲をどう聴かせやすく良くするかしか考えないということだった。色々カルチャーショックだ。今後もこういう環境で音楽ができたらいいな。

19時ごろ何事もなく順調に全曲取り終えた。なんとも楽しい時間だった。LearningとGravityそしてDry Outは特に化けた。アイデアがさらに入ったし、デジタルでは表現できない人間味がプラスされてかなりロックだ。ベンはかなりいい仕事をしてくれた。お礼を言ってこの日は終了。ベンとはまたクリスマスに逢う。

「疲れたねー」とウィルと話しながら帰った。音はミックスでさらに良くなるよと言っていた。段々自分のパートが近づいてきた。明日はドラムエディット、クリスマスの後からいよいよ僕の出番。緊張するなー。

Day8-2020/12/24

早いものでこっちにきてもう1週間すぎた。あっという間だ。ツアーや渡航のあるあるだが、それくらい時間が過ぎると一緒にいる人間をいい意味で気遣わなくなる。気をつかわれなくなった時、本当の友達になれたような気がして僕はこの感じが嫌いじゃない。

今日はクリスマスイブ、アメリカでは一般的にこの辺りから年末モードで年明けまでほぼ全てのものが止まる。しかしウィルはワーカホリック気味でこの時期があんまり好きじゃないらしい。彼の仕事が充実している証拠だろう。

とはいえ25日のクリスマス本番にある家族の集まりに備えて、クリスティーナとプレゼントを用意したり色々と忙しくしてる。しゃーなし感が凄いが家族は大切にしたほうがいいね。

今日はウィルの家にハンクが来て地下のスタジオでドラムのエディットと、ベーシックなミックスを小一時間行った。ハンクは前日3時まで作業して編集してくれてたらしい。めちゃくちゃ眠そうだった。彼は典型的な音楽オタクで、まじで音楽以外何も興味がないらしく、夜中までありがとうと言うと、楽しいから全然苦にならないと言っていた。

僕もミックスに興味があったので同席させてもらった。取り音時点でかなりいいものがさらにまとまる。クリスマスにはあまり興味がない2人も、ミックスが始まると「いい音すぎるくさいなー」って感じでテンションが上がる。たしかにすごくいい音だと思う。元がいいからEQはカットくらいしかないし、コンプもサラッとかけてるくらいの印象だった。

ハンクがグリッドしてきたものを、ウィルがミックスしベーシックを作り、各曲にセッティングを当て込んでいく。流して聴いて気になるところをウィルが直す。所々ウィルがハンクに技を伝授している光景も見ていて面白かった。

「どうだBone$!めちゃくそいい音だろ!」と嬉しそうなウィル。お世辞抜きにめちゃくちゃ良い。拙い英語で「Big but tight」と答えたらどうやらそれが気に入ったらしく、しばらくずっとそれを言っていた。英語で冗談や感想をうまいこと表現するのは僕には難しいが、こういう少ない言葉で"こいつ分かってんな感"をだしたい所、今回はThat worksって感じだ。

あとはよろしくって感じで、ウィルはクリスマスの買い物に出かけ、ハンクも帰った。ハンクとしばらく2人で話せたし、そういうのも良かった。

僕と嫁は家に残りひたすら映画を見たり、ノマドで仕事したりだらだら。今日の夜は僕らプレゼンツでBenihanaを出前したり、ゆっくりと過ごした。

しばし音楽から離れクリスマスを楽しむとする

Day9-2020/12/25

今日はクリスマス。とは言っても僕ら夫婦は呑気な居候だ。家主の2人は今夜のパーティのために忙しそうにしている。アメリカはクリスマスに日本の元旦のような感覚で集まる。そして何歳になってもプレゼント交換を行うのでお互いに仕込みに余念がない。僕は初めてクリスマスをアメリカで過ごすから、話には聞いて理解していても未だにテンションが掴めていなかった。っていうか親戚の集まりに混ざるのが少し不安ではあったが、僕らもクリスマスプレゼント交換大会のためにプレゼントを日本から持参していた。

17時ごろからクリスティーナの姉妹を中心に皆家に集まってきた。クリスティーナのお姉さんは料理が上手でたくさん料理を持ってきてくれた。これは恒例らしい。キッチンで立食しながらLakersのゲームを見たり、お互いの近況を報告したりする。東洋人からすると、おぉこん感じなのか!という感覚だった。

じゃあやりますかとばかりにプレゼント交換を始める。FaceTimeを繋いで来れなかった姉妹家族も参加した交換会を行う。ボックスを並べて順番に好きな箱を取り開けるか、ボックスを取らないで他人のプレゼントをスティールするという手もあって、これがなかなか盛り上がる。僕と嫁のプレゼントは日本のものだったから他のみんなより人気だった。手間をかけて渋谷のLoftまで買いに行った甲斐があった。

結構カルチャーショックだったのは、みんなプレゼントをビリビリ破いて開ける。大人も子供もそうするようで、見ていて面白かった。そしてマジで盛り上がる。ウィルが盛り上げるためにわざとスティールしたりすると、デェ〜イムって感じで沸く。プレゼントの上限は25ドル。僕はロッタリーチケットが当たった。しょぼ!と感じるかもしれないが、皆には羨ましがられた。日本で宝くじを貰ったらこんなに羨ましがられないだろうなーお国柄っすね。そのあとエクストラプレゼントということで、ウィル夫妻に結構いい東京限定キャンドルとかをプレゼントした。ウィルからはフィリーの帽子を貰った。これで晴れて公式 Philly Boyである。クリスティーナは京都に旅行した時の写真をアルバムにしてくれた。感動的だったし、一生懸命相手の喜ぶプレゼントを考えるアメリカ文化の別の面が見えた気がする。

メインディッシュを食べ終わったあたりで、TJのベンが来た。例年はDrunk Christmasと言ってとことんまで行く飲み会が恒例だったようだが今年はコロナで見送りになり、ベンはウィルの家まで来てミニドランクしにきた。

そして、じゃあやりますか第二弾でカードゲーム大会に突入。いい大人が、お金をかけるわけでもなく、カードなんて日本ではないし、見たことも聞いたこともない複雑なルールのカードゲームだった。しかもその場にいる人の大半がルールを知らないのに、やろうぜやろうぜとなる。その感覚なんなの?(笑)
嫁さんが通訳してくれなければプレーすることすらままならなかっただろう。今回の旅では嫁さんには感謝しかない。日本ではベラベラ喋る僕だが、こっちではそうはいかない。だいぶダイスケハナコ的なキャラになっているはずだ。

そしてカードゲーム。何これめっちゃ面白い。ゲラゲラ笑いながら深夜までカードゲームをして楽しんだ。僕がワザとウィルが不利になるような手を打つと、「てめぇ奢られといてそれはねぇだろ!」「いやゲームなんだからしゃーないっしょ」とふざけて言い合う。僕も酒が飲めたらもう少し楽しめたかもしれないけど、それでもいい夜だった。

Day10-2020/12/26

この日はホリデー期間ということでお休み。1日ウィル邸ですごした。
ウィルは前夜に相当飲んだ様子で二日酔い気味。あんまり昨夜のことも覚えてない様子だった。日本の正月のような感覚で、残り物を食いながらだらだら過ごした。

Day11-2020/12/27

いよいよ今日から本格的に自分の出番。ベース録りがスタートする。

ご存知の通り僕はベーシストではない。もちろんデモの段階のベースは全て僕がプレイしているし、ベースラインも考えてはいるが、レコーディングでまともに弾くのはなかなか不安が多い。その心中をウィルに伝えると「Bone$のプレイがどんなにクソでも俺が最高の音にするから大丈夫だ!」とぶちかまされる。じゃあ、きっと大丈夫かな(笑)。

今回使うベースはFenderの現行のプレベ。聞けばTurnstileや、Turnoverなどのバンドもこのベースで録音をしているそうだ。特別なリクエストがない限り、できるだけスタジオの知った機材で進めると言うのが鉄則のよう。ペダル類も思いのほかシンプルだし、どこにでもあるものだ。しかも歪みにはRATを使っているし、もうこの段階からベースが結構歪んでいてその辺りは意外だった。

「じゃあ始めよう」ってな具合で開始。ベースラインはウィルやハンクと相談しながら詰めつつ、どんどん録り進めていく。

楽器がかなり鳴るセッティングに整っていて、本当に気持ちのいい音がした。
人生でこんなに長時間ベースを弾いたのは初めてだったせいもあって、左手の小指の筋がすごく痛くなった。

この記録は振り返りながらまとめて書いているが、今思えばまだこの頃は余裕があったように思う。写真の顔も晴れやかだ。

個人的にベースを弾くのはとても好きだ。特に今回は前作までギターで細かく弾いていたフレーズをシンプルにし、その分ベースに託したところもあって、ベースという楽器が締める割合は大きい。

この日は、Dry Outや、Deceptionなどベースラインのシンプルな5曲にとどめ終了。帰りはモールで日用品を買ったりしながら帰宅した。

Day12-2020/12/28

朝から左手小指がめっちゃ痛い。ベースって弾きまくるとこうなるんだ〜と、妙に納得した。10時ごろからスタジオインして、本日もベース録り。

今日はMotionless Time、Searchingなどベースラインが複雑な曲を中心に進めた。

途中ウィルがウェブミーティングで離席したりと、ハンクと2人きりの場面も長かった。
印象深かったのは、Motionless Timeの間奏部分だ。縦ノリのバウンシーなパートがあり、そのベースラインは2人で考えた。
キックとどの程度合わせるか、どこまで外すかという塩梅が非常に難しかった。
「あんま合わせすぎるとEasycoreみたいだよな〜」とか言いながら良いポイントを探った。

ウィルが戻ってきて、Searchingのベースラインを相談した。
デモの段階ではとても手数が多かったが、シンプルにする作業を中心に話を進めた。僕はとにかくフレーズを詰め込みすぎる悪い癖がある。その分聞きにくくなるからそれは気をつけた方がいいとアドバイスを受けた。前半はウィルのアイデアでシンプルに、後半は僕のアイデアを残して曲がだんだん盛り上がるように忙しいベースラインにした。

ベースのプレイは慣れないものの、さして大きな問題もおこらずに進行していった。

ドラムの音が死ぬほどいいのでベースが乗っただけで、プレイバックの音は大迫力だ。
こりゃ〜明日からギターでさらにやばいことになるぞぉ!とこの時はまだまだ呑気だった。

Day13-2020/12/29

今日からいよいよギター録り。体もだいぶアメリカ時間に慣れてきたし、8時に起床して、10時にスタジオインするルーティンにもだいぶ順応できてきたと思う。

Studio4にはレコーディングブースが数部屋あり、今日はセカンドルームを使う。セカンドルームは昨日まで使用していたメインルームよりも狭いが、ラックの数も多くよりスタジオらしい印象。壁にはCypress Hillの1stアルバムのディスクがかけてあったのも個人的に印象的だった。あとで聞いた話では、このレコーディングの時には全員銃をご持参だったようだ。

話を戻そう。今日はスタジオにカメラマンを2名呼んでいた。動画のブリテン、静止画のルークだ。渡米前からウィルのアイデアで、ドキュメンタリーを作ろうという話になっており、今日から2日間に渡って撮影をしてもらう。 ブリテンはTigers Jawや、Citizenの案件に加え、自信が所属する制作会社ではKanye WestやBeyonce、大統領選挙用の映像や、NFLなどの大型案件にもアシスタントながら関わっている非常に将来有望なクリエーターだ。そして性格もめちゃめちゃいいやつだった。ギターのトラッキングが終わり次第撮影を始めよう!と、初めは意気揚々だった。

ひとまずギター選びから。Studio4にはFenderのギターのほうが圧倒的に多いが、楽曲の特性からGibsonのLes Paulを選択した。そこもかなり意外だったが、もっと意外だったのは足元と、アンプ。Peaveyの5150に、OCDのオーバードライブという組み合わせ。もっと見たこともないようなビンテージのMarshallとかそう言うのを想像していたので面食った。目の前にあるのはどこにでもあるPeavey。
「Peaveyなんだぁ〜」とちょっと残念そうにいうと、「Peaveyはグレートなアンプだし、このTurnstileもQuicksandもこれだぞ!Bone$!」とぐうの音も出ないことをあっさり言われる。曰くブレと癖の塊のビンテージなんかより、スイッチを入れたらいつもの音が出るアンプこそ貴重なんだそうだ。
「結構安めの機材なんだな」的なことを言うと、めちゃめちゃムっとされつつ「おいおい、ここにある卓は5000万くらいするんだぞ」と怒られた。この卓はロシアの軍用パーツを使用しているデッドストックで、世界に現存するのは9台。その内の1台をデイブグロールも所有しているが、Studio4にあるものはデイブのものよりイコライザーのつまみが1つ多いらしい。しまった、Peaveyのことだけ言ったつもりが、拙い英語も手伝って失言してしまった。 余談だが、ウィルは人の言ったことを決して忘れない性格で、この「安い機材」発言は友人関係が続く限り未来永劫いじられ続けるだろう。この件は今回のレコーディングでは最後の最後までイジられていた。パンクに関わる人の性格が難しいのも万国共通ということだ。

セッティングも決まって、いよいよ録り始める。最初はNamelessからだ。

日本でのレコーディング時、僕はパンチインを多用する。その方が効率がいいし、さっさと終われるからなのだが、ここでは極力パンチインをしない。自然なコードの移り変わりや、人間らしい音が途切れる瞬間、ブレを大事にする。この工程が非常に慣れない。僕は日本で自分のパートを弾き込んでこなかった。アメリカで編曲した際にだいぶ内容が変わると踏んで、できるだけ固定概念を排除したかったからだ。ある意味でこの配慮は正解だったのだが、1年かけて楽曲を作っているだけに、全ての曲をスラスラ弾けるわけではない。だいぶ前に書いた曲は思い出すのもちょっと時間がかかる。

そしてこの日、最も地獄だったのがDry Outのイントロだ。これが終わったらすぐに撮影だ!と意気込んでいたのは最初だけ。全くウィルのOKが出ない。 聴くだけであればなんてことないフレーズだが、リード曲ということでウィルの意気込みもすごい。カメラマンも待たせているし、全然OKでないしで、どんどん追い込まれていく。

結果的にイントロだけ2時間強弾き続けやっとDry Outのイントロだけ終了。終わった頃には精神的にボロボロの状態に。極め付けに「Welcome to Studio4,Bone$!!」とまで言われてしまった。やり直しはこのスタジオの定番だそう。

そして間髪入れずフッテージの撮影。インタビューなどを撮った。凛々しい顔で映りたかったが、もう完全にズタズタの状態だったので酷い顔でインタビューを撮った。その辺も是非ネットで見て欲しい。自分で見るともう目が死んでいて笑ってしまう。

撮影後うなだれながら帰宅。ウィルは録音中は厳しかったが、帰り道は非常に優しい。過去にやり直しを強いられたバンドは数知れず、1日かけて1曲の半分も録れなかったバンドもいるそうで、そんなエピソードを話してくれた。

これがここから始まる、洗礼の幕開けであった。

Day14-2020/12/30

本日もギター取りをセカンドルームで行う。バッキング系のギターをどんどん録っていく。
ウィルはとにかく耳がいい。ちょっと小指の抑えが甘かったりすると即座にバレてやり直しを食う。僕はバレーコードが本当に苦手なのだが、今回は無理してバレーコードを結構いれた、そのせいで今まさに地獄を見ている。弾く→ミスる→チューニングのループが延々と続く。

おそらくここ2日間で、一生分のチューニングをしただろうと思うほど音程にはシビアなのだが、アメリカのプロデューサーの中ではウィルはまだまだ甘い方だという。
予定ノルマは少し満たせていないものの、合格ラインを超えたあたりで、2日目の撮影を行った。メインルームで演奏シーンを撮る。

本当にどれもすごくいいクオリティのフッテージで、撮り終わった時は心が踊った。

後日談
僕らの帰国後、カメラマンのブリテンが車上荒らしにあい、機材ごとこの撮影のデータを盗まれてしまった。結局、データは陽の目を見ずに亡きものとなってしまった。なんとアメリカらしい話だろう。かろうじてインタビューの映像はデータのバックアップがあり、フッテージ自体は存続できた。この映像は後日、Ice Grill$のYouTubeチャンネルにアップされる予定だ。ブリテンもリカバーに奔走してくれたから本当にありがたかった。

撮影が終わってカメラマンの二人とはお別れ。この後はStudio4ならではの工程だった。ウィルがおもむろにたくさんの打楽器を持って登場し、それを曲に合わせて叩いて録音してゆく。

この工程が非常に興味深い。さまざまな打楽器がスパイスとして散りばめられることで、音に深みが増す。この工程はここでレコーディングするどのバンドでも行われているそう。ウィルの特別なメソッドだ。Hollow Sunsのアルバムでもどこに打楽器の音が入っているか探して欲しい。
ラフに打楽器を打ち、ミックスの段階で整える。「Travis Scottでもなんでも、リズムが格好よくない音楽には人は振り向かない、どのジャンルでも肝は一緒なんだ」と説明してくれた。とても勉強になった。

ウィルが席を外した時に、タンバリンやマラカス、トライアングルを真似して演奏してみたが、彼のように上手くいかない。簡単そうにやっていたが熟練した技だったことに気がついた。何事も奥が深い。

Day15-2020/12/31

本日は大晦日。今年最後のレコーディングだ。

朝一、ウィルに「今日から歌とれるか?」と言われ、とっさに「ついに来たか!」とギョッとした顔をしたせいで笑われた。なぜギョッとしたかと言えば、彼が日本にいる時「俺はドラマーと、ボーカルに厳しいぜ」とあらかじめ言われていたからだ。昨日までのギターの工程で心がボッキリ折れている状態で朝一番の不意打ちだったので、一気に緊張して来た。

今日から、ギター録りと、ボーカル録りを平行して行う。ひとまずギターから着手し、昼飯を食った後いよいよボーカルだ。

「過去のHollow Sunsの曲を聴いたけど、僕はBone$の英語が理解できなかった。日本人リスナーの大半は英語が理解出来ないわけだから、Bone$の歌やメッセージは誰にも通じてないことになる。今回のアルバムはちゃんと聞き取れる英語にしよう。」と冒頭で辛辣にかまされる。

今回の録音の工程は何度も歌い、発音・発声がしっかり出来た箇所をつなぎ合わせる手法を取った。なんだ簡単そうじゃん!と思うかも知れないが、これが死ぬほど大変だ。

まず当たり前だが、英語の発音は日本語と全く違う。唇から喉の方まで全体を使って発音するし、単語の並びやスペルによってより複雑になる。ちょっとでも間違えばウィルから即NGがでる。同行した嫁にも横についてもらい、アドバイスをもらいながら進めた。
そして、ウィルは発声にも厳しい。ちょっとでも鼻の方に抜いて歌うとこれまた即座にNGが出る。しっかり胸に響かせて歌わねば合格はもらえない。さらに音程や、タイミングもしっかりとするのは当然。一節歌うのにも様々なことに注意しながら同時進行しなければならない。
そしてOKテイクが出たとしても、前のテイクと繋がりが悪いとNGになる。奇跡の一発がでるまで何度でも繰り返すのだ。この作業は本当に辛い。ヘッドホンを捨てて逃げたくなるほどに。

結局Nameless1曲を録るだけでも2時間近くかかってしまい、予定時間をオーバーしてしまう。当然声も枯れるし、体力的にもかなりきつい作業だった。これを後10曲分、単純計算で時間にして約20時間繰り返す。そう思うとかなり気が滅入った。

打ちひしがれて帰宅。この日は大晦日ということで、ウィルが気を利かせてビッグディナーを用意してくれた。彼は無類の日本食好きで、曰く今夜の寿司はフィリーNo.1の寿司職人よるものだそうだ。まさかアメリカで日本より豪華な寿司が食えるなんて思っても見なかった。

ウィルは大きなレコーディングが終わると皆にこれを振る舞うそうだ。今回は年末だから特別。僕はやっぱり日本人なので、久々にお米が食べれてとてもハッピーだった。感謝。

カウントダウンはクリスティーナも交え、4人でゆっくりテレビを見て過ごした。年越し番組ではタイムズスクエアが映っていたがコロナで全く人がいない。なんとも見栄えの悪い有様だった。本当に以前のような世界がもどってくるのだろうか?とこの時は思ったものだ。

歌ったせいでかなり体力を削られてしまい、この日は年を越して早々に就寝した。

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