HOLLOW SUNS

Concept

今作のテーマに辿り着いた理由は、ごくごく平凡なことがきっかけだった。
友人が家を買ったり、生命保険の話をしたりする機会が年齢的に増えてきて、人生の価値を金銭的に可視化することが増えてきた。「まぁ俺が死んでも家族に家が残るから」と冗談半分に友人に言い放たれて、高笑いしたが妙に納得したとともに、もう死ぬことも折り込んで生きていくんだと気づき「あれ?じゃあなんのために生きてるんだっけ?」という子供のような疑問が浮かんだのがきっかけになった。
日本では人は死ぬと三途の川の向こうに渡るという言い伝えがあるのはご存知のとおりだと思う。今作”Otherside”のタイトルはその思想から着想を得て「死」を象徴している。
「どう死ぬか」は、「どう生きるか」と同じことで、人目や、他人の評価、なにより自分自身のエゴを捨て去って、新しい扉を開き、たとえ犠牲を払い、たった1人であったとしても、俗世と別れて今いる場所と「反対側」へ到達することで、より意味のある生を得ることができると言うことが今回のテーマ。
その境地に達するためには体験から、愛や時間、自己と言うものを自分なりの理解、理論で本質に気づくことが不可欠ではあるものの、それは非常に勇気がいることで、悩むことの連続。今回のアルバムはその思考や体験のプロセス1つ1つがストーリーとして各曲に切り取られている。いわば自分の体験記なのかもしれない。

Song 01 - “From the Inside”

内から湧き上がる感情がテーマ。自分は何処へも属さないと言う想いを吐露した曲。
スローな曲で作品をスタートさせる癖は今回も健在だが、ベースでひたすら引っ張るスタイルは初挑戦だったかもしれない。今作全体に言えることだが、ギターのフレーズはシンプルに、ベースのフレーズでそこを補填した。この曲は特にその構造が顕著だったように思う。
ミックスが上がってきて1番驚いたのはベースの音がとにかくでかいこと。そこはウィルの采配勝ちで、デモバージョンとは全く違う仕上がりになった。流石の一言。

Song 02 - “Deception”

真のオープニングソング。バッキングギターはやや複雑なオープンコードをチョイスしているものの、全体的にはギターもベースもひたすらシンプルな曲。アメリカで指摘されて初めて気づいたが、Aメロ部分はマイナーキーなのに対し、サビメロはメジャーキーらしい。偶然だったがいい曲になった。狙って出来たらもっといいのになぁ。
「欺く」という名前となったこの曲は、世間から自分自身を欺くことを辞めてしまいたいという願望と、そうすることへの恐怖がテーマ。誰でも自分を強く持ちたいが、世間ズレは恐ろしい。枠に囚われてしまう。
ドラムレックの時には「テイラーホーキンスみたいにいこうぜ!」と元気のいい指示がベンに飛んでいた。今となっては悲しい話だ。テイラーが偉大なドラマーなのは万国共通。僭越ながらこの曲はテイラーに捧げたい。RIP。

Song 03 - “Motionless Time”

作曲時、“Deception”から流れるようにこの曲に入ると言うことに心血を注いだ。僕の中での名盤の定義は「5曲目位まであっ!という間に聴ける」というのが第一条件だ。例えばStrike Anywhere”Dead FM”は前半の曲にほぼイントロがない。あっても極端に短い。怒涛のように曲が過ぎていくが全て自然だし、心地いい。この曲は究極の3曲目を目指した。
間奏のベースフレーズもやり過ぎないようにアシスタントのハンクと色々アイデアを出し合った。ばっちりキックと合わせてしまうとメタルコアのようだし、合わせなさすぎるとだらしない。良いところを目指して今のバージョンで落ち着いた。
「動きのない時間」と題したこの曲は、周りとのズレに疲れ切ってしまった気持ちをテーマにした。Hollow Sunsは「難しい渋いバンド」の一言で片付けられていたことが多く、へきへきとしていたのもあったのかも。だからこそ応援してくれた人への感謝は忘れない。この場を借りてありがとう。

Song 04 - “Deep Down”

Studio4で1番評判がよかった。ただひたすら鬱々とした気持ちを歌ったグランジ最高潮の1曲。
今となっては笑えるがこの曲の元々の題名は「Big Deep Hole」だった。墓穴がテーマの曲だったからだ。あんまり世間にない個性的な言い回しを使いたくキワを攻めたつもりが、どう頑張っても「でっかいケツの穴」になってしまうようで、アメリカ人に最後までいじり倒された苦い思い出も。歌詞と題名を改善し“Deep Down”に落ち着く。
イントロのベースの音も最高だし、ウィルが編曲したドラムもシンプル&パワフル。ウィルの好きなアルバムはNirvanaの”In Utero”なのも手伝ってか、ファジーなギターが無骨にキマった。

Song 05 - “Nameless”

「Very very loud Turnover」とお褒めをいただいた曲。デモの段階ではもっと展開があったが、全てRamonesのようにストレートに。そのアレンジは大成功だったと思う。イントロのリードギターはエレハモのPOG2を使用し、幻想的なシンセっぽいサウンドを作ることができた。Studio4には山ほどエレハモのペダルがある。時間があったらもっともっと試したかった。
歌詞は自分の結婚式の日をテーマにした。初めて妻のことを歌にしたから本人の前で歌うのは恥ずかしかった。
僕は結婚する前「この先50年も一緒にいる約束をするのか、何も保証がないのにそんなことしていいのか?」と不安になった。それでも式の当日は家族や親戚も集まって喜んでくれたし、妻も気合いのウエディングドレスで仕上げていて、とても幸せな気持ちになれた。その刹那「実際は何も問題が解決していないのに、こんな風に幸せに感じるのだからこれがきっと愛なのだろう」と言う想いがよぎった。今まで想像していたドラマのような愛とは全く別の、複雑な感情こそ愛なのであれば、その感情に名前をつけ直さねばならない。
結婚式の当日は桜が綺麗に咲いていたから、春らしいバッキングに良い歌詞が書けた。美しい曲になったと思う。
ちなみに妻の名前も「あい」なので、落語のオチのような歌になった。お後がよろしいかはわからない。

Song 06 - “Dry Out”

音源ファイルの日付をみたら2016年に書いた曲だった。この曲と”Rewinding the Time”は過去に作曲したものだ。本来は”Into the Water”に収録する予定だった楽曲だったが、当時メンバーがボツにしてそれ以来お蔵入りだった。しかし、お蔵曲はウィルの手によって、曲名とは裏腹に水を得た形となった。
レコーディング記にも書いた通り、この曲のサビはアメリカで書いたし、間奏部分のメロディと歌詞はウィルが書いた。あえて白状するが、サビ前のリフはCleave時代から温めていた。自分を信じて突き進んでよかったと心から思える、僕にとっては特別な曲。
終わらない自問自答で壊れてしまうという歌詞。描写も素晴らしくクールにキマった。ビデオも美しい映像で撮れたから是非見て欲しい。

Song 07 - “Searching”

今までのHollow Sunsには存在しなかった扉を開けた楽曲。Billie Eilish”Bad Guy”から着想を得て、ひたすらベースでグルービーに引っ張る曲を作った。ギターもほぼ全編クリーントーンなのは初挑戦だ。
アウトロのソロはアメリカで作曲し、最後の歌で残るパートはウィルのアイデア。「モーメント(瞬間)を作れ」とウィルは何回も言っていて、それは本当にいい言葉だと感じたし、これからの楽曲制作でも糧になる一言だったと思う。
この時使ったギターは、Fenderがウィルのために作った世界に1本のギター。Fenderらしからぬハムバッカーだが、タップがついていて無茶苦茶透き通ったクリーンが出る。いつまでも弾いていたい綺麗な音がする。
ちなみにCirca Surviveのメンバーはどうしてもこのギター個体が欲しくて、わざわざFenderにまったく同じものを作らせ、そのギターをウィルの個体と交換するようにせがんで来ているらしいが、ウィルはその連絡は既読スルーしている。しかし、そのやりとりも納得の1本である。
常識と反対側へいくためのドアの前でまごまごしている、そんな気持ちを歌詞にした。メタファーもKensukeと綺麗に作れたと思う。彼に描写を説明するために絵を描いて伝えた。相方がKensukeじゃないと出来なかった歌詞だと思う。

Song 08 - “Learning”

スタジオでベンに「この曲がバーでかかってたら、しかめっ面でグラスを掲げるなぁ」とアメリカ人丸出しのことを言われて嬉しかったのを覚えている。何から何まで初挑戦の曲。そのベンもリズムが跳ねているので少々手こずっていた。自分のやり方でオリジナリティのある楽曲が書けたと自負している。ブルージーな曲になった。僕もオッサンになったのかもしれない。
失敗や傷つくことから学ぶということ、「教訓」がテーマの曲。ライブで早く演奏したいもんだ。

Song 09 - “Gravity”

最後まで歌詞が書けなかった曲だったが、映画「Interstellar」からインスピレーションされ重力をテーマにした。想像することで、重力から解き放たれ真に自由になる。達観に到達した無敵の気持ちを歌詞にした。反対側へ辿り着いた”Otherside”のクライマックスかもしれない。
楽曲も複雑性とキャッチーさの両方を兼ね備えたアプローチが出来たと思うし、リフ回しはHelmetや、Quicksandを手本にしていて、Quicksandと同じ機材で録っている。
間奏ではTravis Scottのようにアプローチしたいという想いから、オートチューンを使っていて、ウィルもこれについては快諾してくれた。自分の中では殻が破れた楽曲。マナーを守りながら境界線を超えられたことが何より嬉しかった。
サビ裏のギターも弾きまくった。指板をかなりワイドに使ったフレージングができたので手応えもあったし、レコーディングでどデカい音で弾くのも楽しく、ベストテイクが出るまで僕の方が粘ったほどお気に入りのフレーズだ。

Song 10 - “Rewinding the Time”

書いたのは2017年だと思う。その時はボツになったが、メンバーの意見もあって渡米前にぎりぎりリライトしてレコーディングのリストに入れた。昔の曲だけにフレーズの手数はアルバムで1番多い曲だと思う。No WarningやDown To Nothingのような軽快なツーステップを自分のバンドでも取り入れたいという願望がやっと叶った曲。
この曲は古い友人と久々に会って言葉をかわした時、言葉もなく自分と同じことを考えていたという体験から歌詞を書いた。人はどこまで行っても孤独だが、言葉を交わすことで一瞬でも前向きになること、同意を得ることで暗い景色に一筋光が見えること。道を歩むのは自分自身だが、時に友の存在も重要だという曲。

Song 11 - “When It’s Over”

Kanye West ”Use This Gospel”から着想を得て書き出した曲。スタジオで妻から「blinkの静かな曲みたいで良いじゃん」と言われた。確かにメインリフにはそんなバイブもあるし、とても気に入っている。
創作することをやめた自分を想像し歌詞を書いた。生きがいであることをやめた時自分がどんな風になるだろう、大切な人は自分のことをどう思うだろうと想像した。
この曲のボーカルレコーディングは地獄のような時間だった。詳しくはレコーディング記をみていただきたい。そんな体験も相まって、この曲を聞くとさまざまな意味で胸が苦しくなる。思い出しただけで泣きそうだ。でも、ミックスが上がってきた時、一番嬉しかったのはこの曲かもしれない。Pixiesのように美しい曲になったと思う。

Epilogue

ここまで読んでくれた人にまず、お礼を言いたい。是非この記録・セルフライナーノーツとともにアルバムを聴き返して欲しい。少し違った聴き方ができるかもしれない。

今作はウィルをはじめ、多くの人と関わり合いながら作った作品だ。メンバーのアユムをはじめ、東京で待っていてくれたクルー。Ice Grill$。Studio4のクルー。クリスティーナ。何よりわがままを聞いて一緒にアメリカにいってくれた妻にも心から感謝していることを最後に書き残したい。

”Otherside”は僕のキャリアの中でも特別な作品になった。これを読んでくれている人にとってもそうであって欲しいと願っている。

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